はじめに



このブログは、フェンダーのプリンストン・リヴァーブ08年製リイシュー・モデルのメンテナンスと改造に関する私的なメモですが、どなたかの参考になればと思い公開しています。たまに内容が追加・訂正されます。著者はインディペンデントで活動するギタリストです。

プリンストン・リヴァーブ・リイシューはオリジナルと比べると、コストダウンして大量生産できるように設計し直されていますが、手を入れてやればかなりいい音のアンプに化けます。5年ほど付き合いながら少しずつ手を入れていますが、これからもいいパートナーであり続けると思います。いたずらにヴィンテージに近づけることを目標にチューンするよりも、リイシューは別物と考え、リイシューなりのよさを引き出すようにチューンするほうがよいと思います。そうでないと、最終的にすべてのパーツを交換することになってしまいます。歴史的遺産という重荷を背負ったヴィンテージより、気兼ねなく改造できるリイシューのほうがよいという考え方もできます。また、このブログでは基本的にシルヴァーフェイスには触れませんが、今までの経験から言えば、アンプ直で使用するという条件で言えば、プリンストン・リヴァーブに関してはリイシューのほうが平均的に音がよいと感じます。ただしシルヴァーフェイスも、しばしば施される回路のブラックフェイス化(FenderがCBS傘下になって改悪された回路を元の回路に戻す改造)、経年劣化したパーツの交換などしっかりメンテナンスをすれば素晴らしいアンプになります。

また、モディファイによる音質向上に腐心するよりも、現場の音環境を読んで常に最良のセッティングを出せる能力を獲得することのほうがはるかに重要ですし、アンプが常に正常に動作するようにメンテナンスしておくことがモディファイの大前提だと思います。また、例えばスピーカーの交換がアンプの実力を何割増かにするほどのインパクトがあるのに比べ、何万円もする電源ケーブルの交換による音質変化はたかがしれているように、モディファイの優先順位を常に意識しておくこと、そして一部のコンポーネントのグレードアップに集中するよりも、各コンポーネントの総体としてのアンプのバランスを常に意識することが重要だと思います。スピーカー交換、真空管(V1)交換、バイアス調整がもっとも音質向上に貢献します。このブログでは、ライヴやレコーディンングといった現場で気兼ねなく使い倒せるアンプに仕上げることを基本に、音質と同じくらい耐久性、ランニングコスト、メンテナンス性を重要視します。

しばしば、ヴィンテージとリイシューを並べて弾き較べ、リイシューは音が冷たいとか物足りないという意見を目にしますが、これは主に、リイシューのスピーカーの慣らしが済んでいないことと工場出荷時のバイアス調整がコールド寄りであることが原因と思われます。この2つの条件をクリアした上でこそ、公平に近い比較ができることは忘れないでください。

一方で、リイシューの最大にして致命的な欠点は、回路のメインボードのみならず、ジャックやPOTまでプリント基板実装になっているため、修理や改造が非常に面倒で、さらにプリント基板がハンダ作業による熱に弱いという点です。作業時間は倍以上かかりますし、専用パーツの入手も面倒、さらに基板を熱で損傷させた場合の代替の基板は入手不可能なので、なんとか基板の銅線を修復しないといけないということは念頭においておいたほうがいいです。

クローン

質のいいクローンやキットもブティック系メーカーから多数発売されているので、これから購入しようという方は、それらも視野に入れて検討されることをお勧めします。フェンダー製のリイシューと比べるとかなり高価ですが、ずっと使い続けることを考えるならばそれだけの価値はあると思います。はじめから12インチ仕様のものもありますし、クローンというよりも各メーカーがオリジナルの欠点を改良した設計のものがほとんどで、セミオーダーに近い場合も多いです。キットはMojotoneWeberTube Amp Doctorなどから発売されています。また、ブティック系メーカー製の完成品にはHeadstrong AmplifiersHayes AmplificationSweet AmplificationAllen AmplificationVintage Sound Ampsなどのアンプがあります。ハンドワイアードとプリント基板のアンプの音の違いはまったく無いとまでは言いきりませんが、喧伝されているほどのものではないことは確かだと思います。例えばTone Kingのアンプはプリント基板ですが、非常に質のいい基板を使っています。ハンドワイアードのメリットは音質よりもむしろ、メンテナンス性(レイアウトが混みいっていない)や拡張性(大きいサイズのコンデンサも使用できる)やハンダ作業における耐久性(銅線の剥離が起きない)にあります。

ヴィンテージ

ヴィンテージのブラックフェイスはやはり現行品には代え難い素晴らしいサウンドなので、市場価格は高騰していますが、ヴィンテージの音が一番好みと思ったら入手する価値があると思います。出音がすべてとは言え、購入時にチェックしておくべきポイントは、ハムノイズの調子(電源投入後にプラグインせずヴォリュームをあげて診断)、スピーカーがオリジナルか(特にシカゴ製Jensenか)、スピーカーに修理歴やリコーン歴はあるか、トランスはオリジナルか(交換されているとかなり価値が下がるが、現行品でもMercuryよりもだいぶ安価でClassic Toneなどから質のよいリプレイス品が入手可能)、カップリングコンデンサがオリジナルのBlue Moldedか(シルヴァーフェイスに使用されたコンデンサよりも丈夫なのでリークの発生度は少ない)、電解コンデンサの交換歴(オリジナルならば間違いなく要交換)、電源コードが18AWGの無メッキのプラグか(安全面からはオリジナルである必要はないが、交換されている場合は同等のものか)、真空管のブランドと劣化具合(ゲッターの減りや黒ずみの発生)等です。真空管に関しては、自分なら整流管とリヴァーブドライヴァーに優先的にNOSを投入します。オリジナルに使用されている整流管の5U4GBは、リイシューに使用されているGZ34と違ってNOSでも比較的安価に入手できます。バッフルボードに関してはパーティクルボードで脆いので、ガタが出ている場合は質のいいパインやバーチ材のものに換装するといいと思います。また、リヴァーブタンクは経年変化による個体差が激しいので、場合によっては評判のよいMODのタンクに換装してもいいと思います。また、リヴァーブのケーブルも明らかなダメージが見られる場合は現行品に交換したほうがいいでしょう。



参考になる本とサイト

まず、フェンダーのアンプに関する基本情報が充実しているサイトと書籍を紹介しておきます。リイシューに関する記述には乏しいですが、fenderguru.comのプリンストン・リヴァーブのページを最初に通読するといいと思います。よくまとめられた記事で、内容の信頼度も高いです。また、Fenderアンプのメンテナンスとリペアに関しては、日本のGuitar Amp Shopギャンプスの記事が非常に丁寧で参考になります。プリンストン・リヴァーブ・リイシューを改良して販売しているRat Valve Ampsのサイトも改良内容を開示しているので参考になります。参考書としては、How to Hot Rod Your Fender Amp: Modifying your Amplifier for Magical Toneを手元に置いています。特にバイアス調整、スピーカーの慣らし方、キャパシタ―についての解説、リヴァーブの修理の記事などが参考になりました。ヴィンテージのコンポーネントを必要以上に礼賛しない著者の姿勢も現場感覚があって好印象です。また、翻訳も刊行されているThe Soul of Tone: Celebrating 60 Years of Fender Ampsアンプ大名鑑 [Fender編])も資料性が高いです。そのほかアメリカのフォーラム(掲示板)でもプリンストン・リヴァーブ・リイシューの改造については話題が尽きません。特にニッチな話題について調べるときはフォーラムが有効です。ギターマガジン2014年1月号の特集記事も、リイシューの製造過程が詳しくリポートされているので、どの程度のクオリティーで組立てられているのががわかり改良時の指針になります。この特集は抜き刷りのような形でフェンダーの販促パンフレットとして無料配布もされており、筆者はスタジオで入手しました。